アトピー性皮膚炎の新しいお薬「ミチ―ガ」について
今回はアトピー性皮膚炎の新しい治療薬「ミチーガ」をご紹介します。
アトピー性皮膚炎では、皮膚のバリア機能が弱まっているため、外からの刺激物質やアレルゲンが皮膚の中まで入り込みやすくなっています。そうすると、痒みや炎症などの原因となる物質が増加し、かゆみなどの症状を引き起こします。かゆみのために皮膚を引っ掻くと、かゆみは抑制されるのではなく、逆に増強してしまいます。掻いてしまう事により皮膚は傷付き、さらにバリア機能が弱まって炎症やかゆみを起こす悪循環に陥ります。この悪循環は痒みと掻破の悪循環と呼ばれ、アトピー性皮膚炎が長引き、悪化する原因となります。
かゆみは睡眠不足や集中力の低下など、生活の質などに大きな影響を与え、また、かゆみに対して不安があると、通常よりもかゆみを感じやすくなることがわかっています。
アトピー性皮膚炎は治療を続けることが大切です。適切な治療を続ければ、寛解が期待できる疾患です。適切な治療、スキンケア、悪化因子対策を続けて、寛解(症状が落ち着いて安定した状態)を目指しましょう。
治療目標は「症状がない、または軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態になること。軽い症状はあっても、日常生活に影響するような急な悪化が起こらない。または悪化しても長引かないような状態になること」です。
アトピー性皮膚炎の症状は、皮膚への刺激やストレスの影響を受けて悪化することがあります。日常の中でも気を付けることがいくつかあるのでご紹介します。
〇睡眠中に皮膚を掻かない工夫をしましょう
・爪を短くしておく
・手袋をはめる
〇アレルゲン対策はしっかりしましょう
・ダニやほこり、花粉がたまらないよう、なるべく毎日掃除をする
・特に布団のダニ対策はしっかり行う
・ペットはなるべく避ける
〇皮膚に刺激を与えない衣類を選びましょう
・ちくちく、ごわごわした素材、毛糸素材の衣類が直接肌に触れるのは避ける
・新品の服は一度洗濯してから着る
〇体を清潔に保ちましょう
・汗や汚れはできるだけ早く落とす
・石鹸・シャンプーは良く泡立てて使い、しっかり洗い流す
・入浴後はすぐに保湿を行う
〇その他
・ストレスを発散させる自分流の方法をみつける
・刺激の強い食べ物やアルコール、たばこは控える
・規則正しい生活を心がける
アトピー性皮膚炎の炎症やかゆみの原因となる物質のうち、IL-31は主にTh2細胞から産生され、末梢神経などの標的細胞に作用し、「かゆみ、掻破」「炎症」「バリア機能異常」「皮膚の苔癬化」の病態を引き起こします。
IL-31を産生する細胞としてTh2細胞、マクロファージ、肥満細胞、好酸球、好塩基球、神経芽細胞などがあります。産生細胞からIL-31が産生され標的細胞に働きかけます。標的細胞には、末梢神経、好塩基球、マクロファージ、好酸球、表皮角化細胞、線維芽細胞などがあり、様々な病態を引き起こします。
〈IL-31の影響〉
・末梢神経に作用して痒みを引き起こす
・末梢神経を表皮付近まで伸ばして、痒み過敏状態にする
→通常は感じない程度の痒みを痒いと感じる状態にする
・マクロファージ、好酸球に作用し炎症を促進します
・表皮角化細胞に作用し皮膚のバリア機能の異常を引き起こします
・線維芽細胞に作用し皮膚の苔癬化(皮膚が厚く硬くなる事)を引き起こします
このように、アトピー性皮膚炎のかゆみにはIL-31物質が大きく関わっています。アトピー性皮膚炎のかゆみの原因物質としてヒスタミンがよく知られていますが、抗ヒスタミン薬では完全に抑えられないとされており、アトピー性皮膚炎のかゆみにはIL-31が中心的な役割を果たすと考えられています。
IL-31は抹消神経に存在するIL-31受容体に結合し、直接的に痒みを引き起こし、さらに、かゆみ伝達神経の表皮内への伸長も促進します。IL-4/13はIL-31やヒスタミンなどによって引き起こされるかゆみの閾値を低下させ、間接的に痒みを引き起こします。
ミチーガ皮下注用60mgシリンジ(有効成分:ネモリズマブ)は、アトピー性皮膚炎の「かゆみ」を誘発するサイトカインであるIL-31をターゲットとした生物学的製剤です。
IL-31のはたらきをブロックすることにより、アトピー性皮膚炎のかゆみをおさえる新しいタイプの薬です。
<ミチーガの適応>
※ミチーガは全てのアトピー性皮膚炎の方が使用できるわけではありません。
従来のアトピー性皮膚炎の治療薬である炎症をおさえる塗り薬(ステロイド外用剤やタクロリムス外用剤等) および抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を使用して、治療を一定期間行ってもかゆみが改善しない13歳以上のアトピー性皮膚炎の患者さんが使用できます 。
ミチーガの使い方 ミチーガは、通常4週間に1回ずつ皮下注射します。
<ミチーガ使用中の注意事項>
ミチーガはかゆみを治療する薬であり、かゆみが改善した場合もアトピー性皮膚炎に対する治療は必要です。 具体的には、アトピー性皮膚炎の湿疹の状態に応じて抗炎症外用剤を併用します。また、湿疹が改善傾向にあるときにも必要な治療は継続します。
<ミチーガの副作用>
主な副作用は、感染症(ヘルペス感染症、蜂巣炎、膿痂疹、上気道炎)、皮膚状態の悪化、過敏症、注射部位の症状(内出血、赤み、腫れ)です。
かゆみはアトピー性皮膚炎の症状の中でも辛い症状の一つです。今回、新しい治療薬としてミチーガが加わる事で、アトピー性皮膚炎の治療の選択肢がさらに広がりました。特に、アトピー性皮膚炎によるかゆみにお悩みの方々への一助となるのではないでしょうか。
ミチーガは当院でも注射可能です。
投与対象となるかどうかは、かゆみや皮疹の重症度を確認する必要がありますのでまずは診察にてご相談ください。
引用参考文献 :
日本皮膚科学会・日本アレルギー学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021年度版
マルホ株式会社提供資材