こんにちは、かすがい皮膚科です。汗ばむ季節がやってきましたね。
汗は気温や運動などによる体温の過剰な上昇を防ぐ大切な役割を果たしています。しかし、それほど暑くもないのに衣類が明らかにぬれてしまうほどの大量の汗をかき、日常生活に支障をきたしているなら、それは「多汗症」かもしれません。
多汗症になると体温調節に必要な量を上回るほどの汗をかきます。手汗のせいで書類が破れたり、電気機器が破損する、シャツの汗染みで人目が気になるといった社会生活に支障をきたすほどの汗は精神的苦痛をもたらします。仕事に集中できない、人前に出たくない、さらにはうつ病を発症するなど、生活の質の低下につながります。これらは若年から中年の社会活動の盛んな世代に多くみられるため、社会生活への影響も大きいといえます。
多汗症には、発汗の原因となる病気があって起こる【続発性多汗症】と明らかな原因がない【原発性多汗症】があります。また汗をかく部位によって、全身の汗が増加する【全身性多汗症】と汗腺が集中している部位や身体の一部に汗が増加する【局所多汗症】に分類されます。
局所多汗症のうち明らかな原因がないものを【原発性局所多汗症】といい、腋窩・手のひら・足の裏という限局した部位から両側性に過剰に発汗を認める疾患です。
原発性局所多汗症は幼少期、あるいは思春期ごろに発症し、手のひら・足の裏は精神的緊張により発汗がみられます。重症例では、したたり落ちるほどの発汗がみられ、手足は絶えず湿って指先が冷たく紫色調を帯びていることがあります。このような湿った手足では表皮がめくれたり、カビや細菌の感染が起こりやすくなります。また昼間(10~18時)は汗が多いですが、睡眠中の発汗は停止するといった特徴があります。
なかでも脇の下の汗が多いものを【腋窩多汗症】といい、これは緊張・自律神経のみだれといった精神的な要因や、温熱刺激によって左右対称性に脇の下に多汗がみられます。手足の多汗を伴っていることもあります。
当院では、外用剤【エクロックゲル5%】を採用しています。エクロックゲル5%は日本初の原発性腋窩多汗症治療の保険適応の外用薬です。
原発性腋窩多汗症の症状である多量の汗は、交感神経から伝えられる汗の指令を受けて主にエクリン汗腺から出ています。エクリン汗腺とは、皮膚の中にある汗を作る器官のひとつで、口唇、亀頭などを除く全身に分布し、特に腋窩・手掌・足裏に多く分布しています。体温調節のために、ニオイのない水分の多い汗を分泌します。エクロックゲル5%の有効成分、ソフピロニウム臭化物には交感神経から伝えられる汗を出す指令を、エクリン汗腺が受け取れないようにブロックして発汗を抑制する働きがあります。
エクロックゲル5%の処方には原発性腋窩多汗症の診断が必要です。診断基準は、日常生活に支障をきたすほど多量の腋窩の汗が、明らかな理由がないまま6ヶ月以上みられ、以下の6症状のうち2項目以上当てはまる場合を「原発性腋窩多汗症」と診断しています。
□最初に症状がでるのが25歳以下であること
□左右両方で同じように発汗が見られること
□睡眠中は発汗が止まっていること
□1週間に1回以上多汗の症状が出ること
□家族にも同じ疾患の患者さんがいること
□脇汗によって日常生活に支障をきたすこと
原発性腋窩多汗症と診断されたうえ、重症の方に処方となります。
現在12歳未満の小児、妊婦、授乳婦を対象とした国内臨床試験は実施されていないため、処方の適応になりません。また緑内障、前立腺肥大による排尿障害、成分に過敏症のある方は使用禁忌となります。
汗の悩みはなかなか人に相談しづらい方も多いでしょう。その悩みは正しく診断し治療することにより解決できる可能性があります。
人知れず汗で悩んでいる方は一度診察にてご相談ください。