毛は外力・異物からの保護や保温など私たちの体を守るためのとても重要な役割を果たています。また、特に頭髪は容姿に深く関係しており心理面においても大きく影響を与えています。
今回は『毛』についてお話しをします。
【毛の構造】
毛は頭髪においては、約10万本存在していると言われ、毛器管は口唇・手掌・足底・粘膜を除く全身の皮膚に存在します。
毛の断面は3層構造になっており、内側から髄質、毛皮質、毛表皮と呼ばれます。
特に毛表皮は毛の最外層となり,保護の役割を果たします。ブラッシングやパーマ液などの物理的化学的作用が過剰だと毛表皮は損傷をうけ、自然の艶が失われてしまいます。
毛は毛とそれを囲む組織である毛包から構造されています。
毛は皮膚の表面に出ている部分を毛幹(体毛と呼ばれる部分)と皮膚の下の部分を毛根と言います。毛根全体を取り囲んでいる部分が毛包です。
毛根基部の膨らんだ部分を毛球と言います。毛球の中央部には毛乳頭と呼ばれる部位があります。毛乳頭を取り囲む毛母には毛母細胞・メラノサイトがあります。
毛母細胞は分裂・分化(角化)しながらケラチンを産生し、毛を産生しています。メラノサイトはメラニンを再生して毛に提供しています。
毛の質や濃さの変化は成長や老化の過程においても見られます。毛は生まれてから成長が進むにつれて太くなり小学生頃には大人とほぼ同じくらいの太さになります。太さが変化する事で毛の質も変化します。中年期になると特に男性では髪の毛が短く変化することがあります。さらに高齢者では髪の毛が一様に細くなり、色が失われていきます。(白髪化)
このような変化は成長や老化に伴うホルモンや代謝の変化で起こると考えられていますが、その過程には個人差がありさまざまな要因の関わりがあると考えられています。
【毛周期】
毛は成長期・退行期・休止期のサイクルを繰り返し生まれ変わっています。これを毛周期と言います。頭髪で言うと約85~90%が成長期(伸びる毛)と言われています。成長期は大体2~6年続くと考えられ、頭毛は1日に約0.4mm伸びます。
その後退行期(毛包の退縮)へ移行し、次の成長期に備える毛を作ることを休む休止期に入ります。休止期は2~3カ月あり、通常、次の成長期に入る準備が出来ると毛が抜けます。
1日に抜ける量は個人差はありますが約100本程度と言われています。
【代表疾患】
① 男性型脱毛症(AGA)
・成年男性の約半数に生じると言われ、前頭部から軟毛化がみられるものと、頭頂部から軟毛化が見らえるものが、単独あるいは同時に認められます。
男性型脱毛症は活性型男性ホルモンの影響を受け、数年続くはずの毛の成長期が極端に短くなり、反対に休止期毛の割合が増加することにより徐々に短く細い毛に変化し薄毛になってしまいます。
男性型脱毛症は病気ではなく「加齢変化の一種」です。治療は主に外用療法・内服療法・自毛植毛術の3つで、いずれも自費診療です。外用療法では毛乳頭細胞・毛母細胞を刺激し発毛を促します。
内服療法は男性型脱毛症治療の第一選択です。5a‐還元酵素阻害剤(フィナステリド・デュアステリド)です。活性型男性ホルモンが作られる仕組みを妨げる薬剤です。
当院では行っていませんが、薬剤治療の効果が乏しい場合に自毛植毛術を行います。
② 円形脱毛症
・突然に境界明瞭な円形の脱毛斑を生じる後天性の脱毛症です。
大部分は頭髪に生じるが、眉毛や四肢の毛などにも脱毛斑が認められる事もあります。
円形脱毛症は毛を作る毛包周囲に炎症が起き、一部のリンパ球が毛包の組織を壊そうとする自己免疫反応が起きておりその影響で毛が抜けてしまいます。
(自己免疫疾患→何らかのきっかけによって本来、細胞・ウイルスなどの病原体を壊そうとする働きが自分自身の身体に向いてしまい機能が損なわれる病気)
他に原因として栄養障害や遺伝的要素やアトピー性皮膚炎などの背景もあると言われています。
単純型→単発の境界明瞭な脱毛斑が突然生じたもの。最も多い型である。
多発型→脱毛斑が多発したもの
全頭脱毛症→頭部全体の脱毛、頭髪がほとんど抜けたもの
汎発性脱毛症→頭髪だけでなく、眉毛・腋毛・陰毛など全身の毛が脱落したもの
蛇行性脱毛症→後頭部から側頭部の毛の生え際にかけて境界明瞭な不整形の脱毛がみられる
治療の代表例として、当院で行ってるのはステロイド外用療法・紫外線療法などがあります。
また急速に広範囲に脱毛が進むような場合は入院しステロイドを短期間大量に投与する点滴静脈ステロイドパルス療法が行われる場合もあります。
③ 抜毛症(トリコチロマニア)
・抜け症は患者が自らの毛髪を衝動的に引き抜くにより、不自然な脱毛斑を生じるものです。病巣内に短く切れた毛が残存しています。手の届く範囲に病巣があり、利き手側の前頭部や側頭部に多いです。
発症には心理的問題が背景にあると考えられており、学童期に好発し、女性に多いです。患者さんは抜け毛を否定ないし自覚していない場合があるため、他の脱毛症と鑑別が必要になります。
治療は精神医学的治療が主体になります
今回は毛についてお話しをさせていただきました。
これまでのブログでも頭髪について書いてありますので、併せて見てください
2021/2/26 「頭皮のかゆみ、毛髪のケアについて」
2021/5/28 「薄毛について」
/https://kasugaihifuka.jp/blog/薄毛について/
参考文献
病気がみえるvol.14皮膚科
皮膚科エキスパートナーシング改訂第2版
新しい皮膚科学第3版 清水 宏
日本皮膚科学会 脱毛症 皮膚科Q&A