今回はアトピー性皮膚炎の新しい治療薬で内服薬の『リンヴォック』と『オルミエント』をご紹介します。
薬の紹介の前に、アトピー性皮膚炎について簡単に説明します。
“アトピー性皮膚炎ってどんな病気?”
・アトピー性皮膚炎は,かゆみのある湿疹をがよくなったり悪くなったりを繰り返す病気です。
・アトピー性皮膚炎は、「皮膚のバリア機能の異常」、「アレルギー炎症」、「かゆみ」という3つの要素がお互い に関連して発症すると考えられています。
“アトピー性皮膚炎の症状が起こる仕組み”
①アトピー性皮膚炎の患者さんの体の中では、炎症やかゆみを起こす情報を伝えるサイトカイン(免疫システムに関わるタンパク質。体に炎症を引き起こす物質)が過剰につくられています。
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②サイトカインが炎症やかゆみに関わる免疫細胞の表面にある〈受容体〉という部分にくっつきます。
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③サイトカインが受容体にくっつき、炎症やかゆみに関する信号が細胞の中にある核に伝えられることで、炎症やかゆみの信号が増加します。
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④これらの反応により、皮膚のさらなる炎症やかゆみが引き起こされ、皮膚状態の悪化につながります。
“アトピー性皮膚炎の治療に使われる薬は?”
・アトピー性皮膚炎の治療は、おもに薬物療法とスキンケアによって行われます。
・薬物療法には、ぬり薬などの局所療法と飲み薬や注射剤のような全身療法があります。ぬり薬は、症状が出ているところに薬を塗り、かゆみや炎症を抑えます。飲み薬と注射剤は、体の内部で免疫機能を調整し、かゆみや炎症を抑えます。
・多くの場合は、ステロイド外用薬によるぬり薬の治療から開始されます。
・ぬり薬の治療で効果が不十分な場合には、紫外線照射による光線療法を行います。
“『リンヴォック』『オルミエント』はどんなはたらきをするの?“
アトピー性皮膚炎には、IL-4(インターロイキン4)、IL-13、IL-31など多くのサイトカインが関与しています。
サイトカインとは細胞から細胞への情報を伝達する物質で、本来は体を正常に機能させるために必要なタンパク質です。何らかの原因で過剰に増えてしまうと炎症やアレルギー症状などを引き起こします。
『リンヴォック』や『オルミエント』はJAK阻害薬と呼ばれる内服薬で、免疫をつかさどる細胞の中にある、「JAK」という部分に結合してして、かゆみの原因となる炎症性サイトカインが過剰に作り出されることを防ぎます。炎症の信号を伝える経路のひとつであるJAK-STAT経路をブロックすることで、サイトカインが受容体にくっついても炎症やかゆみを引き起こす信号が細胞核に伝わらないようにし、アトピーのかゆみや炎症を抑えます。
皮膚の内部の炎症を抑えることで、皮膚の表面に表れる炎症やかゆみの改善が期待されるお薬です。
一つずつお薬の特徴について説明します。
【リンヴォック】
12歳から使用可能なため、小児の患者さんから服用できます。
リンヴォックは1日1回、毎日服用します。服用時間の制限はありませんので、生活スタイルに合わせた時間帯に飲むことができます。
【オルミエント】
15歳以上から服用が可能です。
オルミエントは1日1回、毎日服用します。服用時間の制限はありませんので、生活スタイルに合わせた時間帯に飲むことができます。
◎リンヴォック・オルミエントの適応
リンヴォックやオルミエントは、全てのアトピー性皮膚炎の患者さんが使用できるわけではありません。
従来のアトピー性皮膚炎の治療薬である炎症をおさえる塗り薬(ステロイド外用剤やタクロリムス外用剤等) および抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を使用して、治療を一定期間行っても症状がなかなか改善しない中等度〜重度アトピー性皮膚炎の患者さんに適応があります。
妊娠中や妊娠の可能性のある場合は服用できません。また、リンヴォック服用中は授乳しないことが推奨されています。
◎処方できる施設要件
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医が常勤していることが必要です。当院は院長、副院長ともに皮膚科専門医です。
◎服用開始までの流れ
服用前に採血、全身の写真撮影、湿疹の程度を数値化するスコアをつけます。
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結核等の除外のため、胸部X線検査が必要になります。紹介状を作成しますので厚生病院かトヨタ記念病院の呼吸器内科(小児の場合は小児科)に受診していただきます。
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検査結果に問題がなければ当院で投与開始となります。
服用開始後も安心して治療が続けられるよう、その後も定期的に血液検査や画像検査にて経過を確認します。
◎服用できない方
・オルミエント、リンヴォックを過去に服用しアレルギー反応を起こした方
・重篤な感染症(敗血症など)にかかっている方
・結核の方
・著しく腎機能が低下している方
・妊婦の方、または妊娠している可能性のある方
・血液検査で好中球数、リンパ球数、ヘモグロビン値に異常がある方
◎服用において注意が必要な方
・ヘルペスウイルス感染が疑われる方
・B型肝炎ウイルス感染が疑われる方
・脂質異常症の疑いがある方
・生ワクチンを接種する予定のある方
・高齢の方
◎注意が必要な薬
・痛風(高尿酸血症)の治療薬プロベネシドを服用している患者さんでは、オルミエントの作用が強くなることがあります。
必ず、医師、看護師または薬剤師に伝えてください。
◎リンヴォック・オルミエントの副作用
・感染症
・帯状疱疹
・静脈血栓塞栓症
・間質性肺炎
・消化管穿孔
・横紋筋融解症
・ミオパチー
・心筋梗塞、脳卒中など
服用開始後も定期的に血液検査、画像検査にて副作用の発現状況を確認します。
アトピー性皮膚炎の治療目標は、
◉症状がないかあっても軽く、日常生活に支障がなく、薬による治療もあまり必要としない状態
◉また、このような状態に到達しない場合でも、症状は軽く、日常生活に支障をきたすような急な悪化が起こらない状態になる事やそれを維持することです。
『リンヴォック』と『オルミエント』は、これまでアトピー性皮膚炎の治療に使われてきた内服薬とは異なり、アトピー性皮膚炎の湿疹や痒みの原因を根本からブロックする薬です。ですが、服用開始後もぬり薬の継続やスキンケアは引き続き行なっていく事が大切です。これら2つの内服薬の登場で、今までの治療でなかなか症状の改善が難しかった患者さんの治療法の選択肢が増えました。患者さんのなりたい姿に近づけたり、様々なお悩みの解決の一助となることと期待しています。
投与対象となるかどうかは、かゆみや皮疹の重症度を確認する必要がありますのでまずは診察にてご相談ください。